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十勝地域内外の起業家・経営者同士の交流から新事業創発を促す「十勝ドリームマップ会議2022」が10月29日、丘の上のガーデン「十勝ヒルズ」で開催され、約50名の起業家や経営者が集いました。。

今年は「未来のトレンドを読む〜あの人は未来をどう見ているのか?〜」と題し、未来を見据えて提言し続けている、雑誌『WIRED』日本版編集長松島倫明さん、翻訳家山形浩生さん、野村総合研究所(NRI)上級研究員長谷佳明さんら異分野の3人による未来洞察フォーラムとして開かれました。

「十勝ドリームマップ会議」とは

地域内外の起業家・経営者同士の交流から新事業創発を促す目的で、2017年よりスタートしたネットワーキングイベント。参加者が、互いに刺激し合いながら十勝の未来に思いを馳せ、夢を語り合う。毎年異なるプログラムで実施されている。主催は、帯広市、帯広商工会議所、とかち財団、北海道中小企業家同友会とかち支部、フードバレーとかち推進協議会で構成される「ドリームマップ会議実行委員会」。

過去の開催レポートはこちら

「AIやロボットが社会を変えるが、原動力は人の成長」 米沢則寿帯広市長

今回の十勝ドリームマップ会議は、主催を代表して米沢市長の挨拶からスタートしました。

米沢市長は、冒頭「AIやロボットなどテクノロジーが社会に及ぼす影響は今後、ますます大きくなり、社会経済を変えていくでしょう」とした上で、「それでも企業や地域をつくるのは個々の人の力です。誰でも、いつでも、どこでも必要な知識や技能を学べる環境を整えることが大事。住み良い街づくりも人の力が必要です。十勝ドリームマップ会議に参加された全ての人が、自ら地域を、未来を、変えていくために挑戦してください。この会議をその糧にしてほしいと思います。私の役目は、人の暮らしに何が有益かを考え、実現することです。人ありきの政策を中心に進めていきます。皆で方向性を共有して、すみよい街づくりを目指し、地域の価値を高めていきたいです」と熱く語りました。

「未来は複数の仮説を走らせて多数の未来をつくるように問い続けることが大事」

『WIRED』日本版編集長の松島倫明さんは「FUTURES LITERACY〜未来を想像/創造するリテラシー」をテーマにメタバース※やミラーワールド、Web3といった最新のデジタルテクノロジーについて言及。
「SFの世界に注目してほしい。フィクショナルを交えながら、未来を描いているが、本当は数年先のパンデミックすら予想できないのが世界。つまりは、未来を、誰かが唱えたり、想像したユートピアを信じるのではなく、リテラシーを高めながら自ら創造することが重要です」と未来を掴むために必要なスキルを磨くことが大切と説きました。

講演のなかで、実存主義の代表的な思想家の一人として知られるフリードリヒ・ニーチェの言葉、「過去が現在に影響を与えるように、未来も現在に影響を与える」という言葉を引用。
「20世紀に近未来である21世紀を想像することは比較的簡単でした。漫画に描かれた未来もそうですが、国や企業レベルでビジョンに掲げた未来が形になったものもあります。ところが、昨今はテクノロジーが急激に進化したことで当時想像していた100年後の未来像とは大きく変わってきています。さらには世界的なパンデミックが起きたことで、近未来すら予測できない時代であることを幅広い世代が体験することになりました」

そして、松島氏は、未来を読み解くことについて「多重的な未来そのものにどう向き合うのか、複数の未来に向けた問いを並列に提示することで、想像できない未来を考えることはできます。メタバースも想像できない世界の一つです。未来を想像することが難しくなっているいま、多重的な未来そのものにどう向き合い、複数の未来に向けた問いをいくつも持ち、並列に読み解くことが大切です」と話します。

メタバース (METAVERSE)

メタバース は、「超(メタ)」と「宇宙(ユニバース)」を組み合わせた造語。インターネット上にある、3次元の仮想空間やそのサービスを指し、将来インターネット環境が到達するであろう概念のひとつ。利用者はオンライン上に構築された3次元コンピュータグラフィックスの仮想空間に世界中から思い思いのアバターと呼ばれる自分の分身で参加し、相互に意思疎通しながら買い物や商品の制作・販売といった経済活動を行なったり、もう1つの「現実」として新たな生活を送ったりすることが想定されている(ウィキペディア引用)

「未来は異なる分野をつなぎ合わせることで、それがいつかトレンドになる」

翻訳家の山形浩生さんは「未来の種の見つけかた」と題し、新たな芽は既存分野が周縁で重なりはじめたときに生まれるとし「20世紀は成功し過ぎてしまった。資本主義も終わりかけている。物事が存在する意義や仕組みなど、裏にある複雑な仕組みを理解せずに、目先の課題を捏造しては解決することに悦になっている。未来を予想することは難しい。そうであれば歴史から学んで、行動するしかない」と断言しました。

講演の中で、山形さんは何度も「20世紀は成功し過ぎた」と口にしました。高度経済成長を経て、日本全国にコンビニができ、生活水準が底上げされ、どこでも品質の高いサービスを受けられるようになった20世紀。ところが、昨今の少子高齢化、インフレ、低成長など社会問題が次々に起こることに対して、「20世紀の成功はブラック労働が支えたに過ぎません。肝心の規制緩和やインフラのメンテナンスなど、裏側にある仕組みや修繕を怠り、21世紀になっても終わらずにいることが原因です」と問題を提起。

その上で、未来の生き方について「目に見えていることが正しいことかはわからない。だからこそ、流れやトレンドを自分に置き換えて考えるべき。目指したいのは、既存分野の中間、専門家がいるインターネットと経済や法律を、ネットと経済、ネットと法律と結びつけて、ほかにやっているひとがいない領域を考えることです。まったく異なる分野が急に重なりあうことがあるからこそ、異なる分野を結びつけることをおすすめしたい」としました。

「未来はテクノロジーとアイデアで変わる可能性が高い。大事なのは成功の法則に当てはめること」

最後の登壇は「最新のビジネスを支えるテクノロジーとアイデア」と題した野村総合研究所(NRI)上級研究員の長谷佳明さんです。長谷氏は「現代に成功するビジネスは6つの要素がある」として、以下の6要素が当てはまるビジネスこそが成功する素養が高いとしました。

  • ①個別化(パーソナライゼーション)
  •  
  • ②循環化プロセス(サーキュラーエコノミー)
  •  
  • ③資産の共有(シェアリングエコノミー)
  •  
  • ④従量制エコシステム(Pay per Value)
  •  
  • ⑤協調的エコシステム(リスクの分散と共有)
  •  
  • ⑥機動性(リーン・スタートアップ)



長谷さんは、最近の成功ビジネスの多くがテクノロジーとニーズが連動して変化を及ぼしているとし、米国のウーバー・テクノロジーズ(一般的にUberとして知られている)を例に挙げ、「Uberは、企業と顧客が相互評価をする仕組みにより、ドライバーが車内環境を良好にすることによる差別化を図ったほか、自家用車という個人資産を企業と共有し、走行時間・距離などに応じて対価を支払う従量制エコシステムを構築。ドライバーは、自ら顧客を獲得するというリスクを負うが、企業がデータ分析などによりマッチングや競争力のある価格情報などをドライバーへ提供。ビジネスモデルを継続的に進化させて、ウーバーイーツなどへの横展開をしている」と6つのうち5つが当てはまっていると解説しました。

3人に共通していたのは、テクノロジーを活用し、世界が創造しつつある未来を見据え、自ら考え、行動することで当たらずとも、外れずに未来に向かって進むことができるという点でした。

「未来を読み解くパネルディスカッション」

講演後は、株式会社野村総合研究所の齊藤義明さんと木村靖夫さんがモデレーターとなり、会場からの質問や講演者同士の疑問に登壇者3人が回答するパネルディスカッションが開かれました。

Q①よく耳にするWeb3(ウェブスリー)の世界はいつ頃やってくるのでしょうか

回答者 松島さん
Web3は次世代のワールド・ワイド・ウェブとして提唱されている概念ですが、定着するには10年程度時間がかかるでしょう。ただ、若い世代で一気に広まってきているので将来が楽しみです。Web3の世界のひとつであるNFT(Non-Fungible Token)という「代替不可能なトークン」を使ったマーケットではすでに経済的価値を見出しています。少しずつですが、Web3の世界で意思決定がなされる世界へとシフトしていることは確かです。

Q②格差問題がグローバルで生まれ、それが争いにもつながっています。格差問題を世界はどう解決するのでしょうか

回答者 山形さん
格差は基本的にあると認識することが大事です。昔は、先進国と途上国の格差を心配する声が多かったと思いますが、それは間違いです。中間層が増えつつあるかつて途上国と言われた国では、日本人が到底及ばない富裕層が存在します。格差を問題視しているのは日本くらいです。経済学的には、格差の捉え方を変えるべきで、格差そのものが悪いわけではありません。

Q③長谷さんの講演の「成功する鍵である6つのポイント」が、2つしかない場合は事業を諦めるべきなのでしょうか

回答者 長谷さん
あくまで成功する可能性が高いという指標です。例えば、テクノロジーだけ見ると今後電気自動車が普及していく可能性は高いですが、一方でメンテナンスできる人が足りないという問題に直面したりします。テクノロジーの更に先のチャンスは広がっています。この場合電気自動車のメンテナンスをする事業は成功につながるはずです。つまりは、テクノロジーの延長線上に生まれる何かを見つけて解決すれば成功する可能性が高いという意味でもあります。

Q④経営者として質問させてください。従業員に10年先の未来のトレンドを考えてもらうにはどうしたらいいでしょうか

回答者 山形さん
過去に野村総研に在籍していましたが、私は会社に自由にやらせていただきました。興味のある学会に行かせてもらったり、会社側が私の興味や学びたいことに比較的寛容的で、多少の自由とゆとりを認めてくれました。トップが寛容になることが必要だと個人的には思います。
回答者 長谷さん
私は従業員にとって自分ごとになっていないからだと思います。会社の未来を考えるのは自分の仕事じゃないと思い、考えないわけです。経営側が誰がやるかを決めて、責任を持たせることが大事だと思います。
回答者 松島さん
業務内容やKPIの立て方など、その組織の中では当たり前になってしまっている情報が流通しているので、新しい情報や技術、価値を学ぶために一度組織の外に出すという選択肢もあるのではないでしょうか。

このほか、会場からも多くの質問が寄せられました。中でも多かったのが「Web3」「NFT」「メターバス」といった、今後のデジタル・インターネットビジネスでの重要なキーワードについてでした。

参加した経営者からは「農業や製造業といった異なる産業においても『関係ない』で終わらせず、世界の潮流を知ることで、自分の業界にどう影響するかを考えることが大事ということがわかりました」などの意見が聞かれ、デジタル分野への好奇心をくすぐる内容に満足げでした。

また、参加した30代の男性は「日本の事しか知らないことで、世界の常識だと勝手に思い込んでいる部分がありました。まずは、世界を知ることからはじめたいと思います」と話し、さらに40代の女性は「田舎だから関係ないと思っていましたが、インターネットの世界には、田舎も都会もないんですね。メタバースは世界中にチャンスを及ぼすのではないでしょうか」と皆、未来志向になっていたことが印象的でした。

「十勝ドリームマップ会議2022 in十勝ヒルズ」~未来のトレンドを読む~レポートはいかがでしたでしょうか? 目まぐるしく変化を遂げる現在において、テクノロジーを身近に感じることで、未来を予測することがいかに大切かを感じる会議でした。そして、目に見えている現実を鵜呑みにせず疑問を抱くこと、未来予想図はひとつではなく多数を並行して見ることなど、未来を読み解くヒントを得られたのではないかと感じます。参加者の顔が一同に明るかったことが特に印象的でした。

会議の冒頭、米沢市長が伝えた「十勝ドリームマップ会議に参加した全ての人が、この会議を地域・未来を変えていくための挑戦をする糧にしてほしい」という言葉が、これから実現していくことを期待しています!