2022年9月29日に帯広市で開催された「十勝アグリ&フードサミット」の様子をレポート!
会場となった「ベルクラシック帯広」には十勝の一次産業と食に関心のある企業や支援機関、学生や一般の来場者などたくさんの人が集まりました。また今回は「北海道宇宙サミット2022」と同時開催となりました。
「十勝アグリ&フードサミット」とは
地域内外の参加者同士の交流から事業創発を促進し、農業を中心とした「一次産業」と「食」の持続的な未来を共創することを目的とした、とかち財団主催のイベント。「アグリ&フード2030未来共創」をテーマに、国内における食の一大産地である十勝から、イノベーションを生み出す未来共創が促進されることを目指している。
登壇者: 敷島製パン株式会社代表取締役社長の盛田淳夫さん、株式会社山忠HD 代表取締役の山本英明さん、一般社団法人AgVenture Lab 代表理事の荻野浩輝さん
モデレーター: 公益財団法人とかち財団 理事長の 金山紀久さん
十勝アグリ&フードサミット最初のセッションは、主催者でモデレーターでもある、とかち財団理事長の金山さんの「2030年を見すえて、コロナ禍による衣食住や流通の変化、ロシアのウクライナ侵攻による食の安全保障、気候変動などの変化も踏まえ、一次産業と食の生産地である十勝がどんなアクションを起こしていけるかを考えたい。」という説明からスタートしました。
左から、敷島製パン 盛田さん、山忠HD 山本さん
(盛田さん)
弊社と業界を取り巻く環境としては、食料の安全保障への関心の高まり、流通業界の変化、消費者の変化とニーズの多様化の3点がポイントだと認識しています。
日本の食料自給率は長らく30%台を推移してきましたが、2021年の秋以降は世界的に穀物相場が上昇し、今年に入ってからはロシアがウクライナに侵攻して、食料危機が叫ばれるようになりました。こうした大きな課題に日本はまだ対応しきれていないのが現状です。
また、日本の小売業の変化について話すと、過去20年で百貨店という業態は右肩下がり、変わって、コンビニとドラッグストアが業態としては伸びています。そこにEコマースが急成長しているのが流通業です。
最も変化を遂げたが消費者の変化ですね。40年前は、専業主婦世帯が約1,200万世帯、共働き世帯が約600万世帯でしたが、現在は真逆の数値なんです。ここで注目すべきは女性のライフスタイルの変化です。結婚や出産を家庭に入ることが多かった時代から、現在は様々なライフコースがあり、一括りに30代未婚や40代主婦といったペルソナの設定ができないほど生き方が多様化しています。商品開発においても、非常にきめ細かく消費者のライフスタイルにあわせて商品を開発しないと、売れない時代になっているということを知ってほしいですね。
そうした時代を読み解き、さらにSDGsに取り組みながら、十勝のブランド価値をいかに高めるか。「知の探索」と「知の深化」、つまり新規事業に向けた「実験」と「行動」という、2つの異なるモードを両立させる「両利きの経営」が不可欠だと思っています。アンテナを磨き、世の中を探索し、それらを十勝にあてはめ、マーケットの変化を探索してほしいです。
(山本さん)
十勝人として感じることをお話ししましょう。十勝にはおいしい農産物がたくさんあります。例えば、十勝の「小豆(あずき)」は全国的に有名で、「十勝産小豆を使用」の文字はまさにブランド。そのほかにも、じゃがいも、長芋、牛乳、チーズといった乳製品など十勝産ブランドとして日本一の素材(農畜産物)提供できています。
ところが、十勝の課題は、一級品の一次産品が揃っているにも関わらず、そのメニューの提案、つまりは料理がありません。十勝人に観光客に何を食べてもらいたいか聞けば「豚丼」か「インデアンカレー」と言うでしょう。確かに両者ともに美味しいんです。ですが、一流の素材がたくさんあるにも関わらず、それだけではメニューが乏しいとは思いませんか。
残念ながら、食文化が発展していないと言わざるを得ないのが十勝の課題です。おそらくそれは、1,300%を誇る食料自給率を誇るあまり、すべての素材を消費者に届けるという意識が根強く、素材を生かしたメニューを作ってこなかったからです。
多様な食のニーズが求められる現代において、素材提供に終わらず、一流の食材を使った一流のメニュー提案を育てる必要があると思っています。
今後は安定供給のため、天候の影響を受けることを前提にし、農産物を単年度で考えず、安心・安全を切り口に、難しいことですが、生産者、流通、加工、消費者が同じテーブルにつかないといけないと感じています。
左から、AgVentureLab 荻野さん、とかち財団 金山さん
(荻野さん)
先日、アメリカのサンフランシスコで開催されたアグテック/フードテックのカンファレンスに参加してきました。そこで、何度も聞いた単語が「クライメート(Climate)」でした。つまりは、世界では気候変動が大きな課題として取り上げられているんです。バイデン大統領に変わってからのアメリカでは、スタートアップ企業が増え、新たなテクノロジーやビジネスにお金が集まる流れが出ています。その中で、気候変動という地球規模の課題を解決するテクノロジーが注目されているんです。
日本では、農業においてITを使った効率化や自動化に着目されていますが、気候変動は我々、人類にとっての共通課題です。これからは環境負荷を軽減する生産体制や消費者が環境にやさしい商品を作る生産者を応援する風土を持つことが大事ではないかと考えています。目先の課題解決も大切ですが、日本でも地球規模の課題を解決することの必要性が根づくべきだと思っています。
十勝に置き換えれば、日本国内では食を支える産地ですが、担い手不足や労働者不足が課題で、食料自給率も下がっています。農業の従事者が共同で課題解決に取り組むコレクティブインパクトとして機能し、拡大させながら、十勝の農業が日本を牽引してほしいですね。
(金山さん)
ぜひ、この「十勝アグリ&フードサミット」のイベントが、コレクティブインパクトとしての効果を発揮するよう期待しています。
登壇者: 株式会社農業情報設計社代表取締役CEOの濱田安之さん、アクプランタ株式会社 代表取締役の金鍾明さん、EF Polymer株式会社 オペレーションマネージャーの石井良明さん
モデレーター: 一般社団法人AgVenture Lab 代表理事 荻野浩輝
このセッションでは、環境負荷軽減と生産性向上を両立するための解決策の一つとして、テクノロジー、新技術を活用した未来共創について、農業系スタートアップ企業の代表がそれぞれの意見を交わしました。
来場者にとって農業×IoT、バイオスティミュラントなどの気候変動対応型テクノロジーについての理解を深める機会になりました。
左から、アクプランタ 金さん、農業情報設計社 濱田さん
(濱田さん)
私の会社では、農業機械のカーナビのようなアプリケーション「AgriBus-NAVI(アグリバス‐ナビ)」を提供しています。農業機械を効率的に動かすことで肥料や資材、燃料の無駄を省くことができるんです。起業して8年。スマホ用の農業機械のカーナビを中心に自動操舵ユニットやテクノロジーを活用したシステムをサービスとして開発・提供しています。現在、AgriBus-NAVIは累計で180万ダウンロードされており、そのうち98%は海外からのダウンロードです。日本発のスマート農業アプリが世界で活用されています。
日本の食糧自給率が約40%であることや、実は間接的に水も輸入しているということなど、食の安全に対する固定観念を捨てることが大事かなと思います。日本のスマート農業アプリが世界中で役立っているのに、日本での普及率が低いのも、使わなくても大丈夫という安心感があるからですね。世界の課題は日本の問題でもあります。世界規模で課題を考えるという意味で十勝アグリ&フードサミットは参加者同士の化学反応も期待できますし、北海道宇宙サミットとの同時開催は良いですよね。
(金さん)
世界中で異常気象が起こり、旱魃で困っています。北海道でも水が足りていないんですよね。植物には乾燥を感じると酢酸(お酢)を作り出して、乾燥と高温に耐える遺伝子を活性化させ耐性をつくる仕組みがあり、それを商品化したのが弊社のSkeepon(スキーポン)です。これは肥料でも、農薬でもなく、酢で植物が持つ耐性を強める商品です。スキーポンを使うと、少ない水の量で高温乾燥状況下においても植物を元気に育てることができるんです。
今後世界は人口爆発で水が足りなくなり、日本でも水問題が露呈してきます。2050年には赤道を中心に35億人が住む場所がなくなり、それが2070年には日本に及ぶという予測がされているのですが、何より植物自体がすでに地球変動に耐えられなくなっていることを知ってほしいんです。つまりは、従来の農業生産方式ではこれまでのような生育に繋がらないということです。
今後は、農業生産者が「従来の方式では農業を営むことができない」という意識を持ち、どうすれば異常気象の中で食糧生産をしていくことができるのかを注視していく必要があります。こうした地球規模の課題に対応する技術を提供するのが弊社の使命だと思っています。
左から、EF Polymer 石井さん、AgVentureLab 荻野さん
(石井さん)
弊社は、果物の搾りかすなどを使って、オーガニックな吸収性ポリマー「EFポリマー」の開発・販売をしています。弊社のビジョンは、世界的な水不足とゴミ問題を解決することです。
EFポリマーは自重の100倍の水を吸収し、植物の微量栄養素を保持するので、土壌改良材としても活用できます。捨てられる植物のごみを原材料にしているのでゴミの削減と、使用する農業生産者にとっては土壌中の水分保持による節水と肥料分の保持による肥料削減にもつながるメリットがあります。
気候変動に関しては、世界的にゲリラ豪雨や自然災害が増えており、皆さんも肌で感じているのではないでしょうか。アメリカの中西部では、地下水を使い果たすのではないかと言われています。中国や欧州も、水問題で生産性が落ちてきている作物があります。そういった水や食料生産の問題が火種になり、争いが生まれるのではないかと危惧しています。そういう視点でも、水問題は大きな課題です。この先、水問題を解決するようなスタートアップに資金が集まるでしょう。この流れに日本が乗り遅れないよう、弊社も地球規模の課題を解決する一助になっていきたいです。
(荻野さん)
このセッションに登壇いただいた方は皆スタートアップ企業ですが、スタートアップは色々な方や団体に支援してもらって育っていきます。
前のセッションで敷島製パンの盛田さんが「両利きの経営」と仰っていましたが、それは大きな企業といえど本業が上手くいっているうちに変化に備えて新しい取り組みをしておく必要があるという事だと思います。
今の十勝の農業は非常に上手くいっていると思います。ですが、そこで終わりでなくて、上手くいっているうちに変化に備えた「新しいチャレンジ」をしておく必要があるのではないでしょうか。
今回ご登壇いただいたような、スタートアップ企業の実証実験などに地域を挙げて付き合っていただけると、十勝初の結果が生まれますし、日本全体の農業も良くなっていくのではないでしょうか。
午前中の2つのセッションが終わった後は、トークセッション会場入り口のスペースで新進気鋭のスタートアップ企業がそれぞれの取り組みをPRするランチタイムピッチが行われていました!
帯広畜産大学 産学連携センターの高橋悠さんの司会進行のもと、ランチタイムピッチに登壇したのは食と農に関連する十勝のスタートアップ企業2社と、首都圏のスタートアップ企業2社の合わせて4社。来場者は熱いプレゼンテーションに刺激を受けていました。以下は各登壇者の発表の概要です。
高野さん
「FantはITを活用しながら、ハンター同士の情報交換のためのプラットフォーム運営や、新しいジビエ流通のスキームの構築を行う、猟業界のDXに挑戦するスタートアップです。
自身もハンターとして活動するからこそわかる狩猟業界の課題を、Fantのサービスを通じて解決してゆきたいと思っています。Fantのサービスで飲食店とハンターを直接つなぐことで、新しいジビエのサプライチェーンを展開していきます。近年20〜30代のハンターが増えており、ジビエの需要も増えています。一方で、ジビエ利用率は7パーセントと低く、大部分は廃棄されているのが現状です。ハンター育成に力を入れるとともに、ハンターが狩猟したジビエを飲食店へつなぐ仕組みを広げていくことで、ハンターの安定した収入とジビエの利用率向上につなげていきます」
岡田さん
「私は更別村出身で帯広畜産大学を卒業後、キリンビールのグループ会社に入社しました。2009年にUターンし就農および帯広畜産大学大学院に入学し、北海道農業研究センターにて最先端農業の現場に携わった後更別プリディクションを創業しました。農家でありながら、企業・大学とスマート農業の実証・研究を行い、農家の収益向上のためのシステム『AgZeni』を開発しています。
AgZeniは、『農家目線』で誰でも簡単にデータが利用できることと、『農業研究者目線』で作物に合わせた正しいデータ解析を行うことを意識した畑ごとに最適な生育支援のシステムです。また、畑のデータ管理をするために必要な土壌マップの作成や生育の把握、栽培履歴自動取得、収量マップの作成を行います。高騰し続けている肥料や資材の効果をデータに基づく最適化の提案をすることで収益向上のお手伝いをしていきます」
河合さん
「日本の農業が抱える根本の課題は、販売先市場が国内に限定されていることです。こういった状況では、産業としての成長は見込めません。たとえば、日本全国が豊作の年には、供給過多となり単価が下がります。需要が国内のみに限定されているためです。農家が一番儲かるのは、他産地が不作で自分たちだけが豊作の年です。
株式会社日本農業は、海外への輸出販路を開拓することで、この産業構造を180度転換しようと考えています。海外の人にとって付加価値のある、“良いもの”が作った分だけ適切な価格で売れることで、作った分だけ儲かる産業構造を創り出そうと考えています。
『日本の農業で、世界を驚かす』ことをミッションに6年間海外で戦ってきました。現在アジアは人口増加とともに、食糧としての農作物が不足しているので、日本の農作物は引き合いがあります。全国の農業者とネットワークを構築し現地でのブランディングや知財管理、ゆくゆくは現地生産も視野に事業展開のサポートを行っていけるよう取り組んでいます」
中川さん
「株式会社アールティはサービスロボットの開発・販売・研修を手掛ける企業です。2005年に起業し、2017年には製造業向けのAI / ロボティクスソリューション事業を立ち上げ、食品工場向け人型協働ロボットFoodlyや製造ラインの開発を展開してきました。
私自身は、教育・食品分野におけるロボット開発の実績が評価され、2022年に日本ロボット学会のフェローに認定されました。これからも、ロボットがいる暮らし、ロボットが働く未来をつくる事業を展開していきます。現在は、全自動化へのマイルストーンといえる段階で、食品分野だけでなく農業分野でもロボットの引き合いが増えてきています」
会場内では、十勝の夏のイベント「十勝FARMER’ S MARKET」の主催や、人気雑誌「スロウ」を出版している、「クナウパブリッシング」がプロデュースする、十勝のグルメや雑貨がいっぱいの「とかちいいものマーケット」も開催されました。
地元の人も大好きな満寿屋商店のパンや、焼き肉平和園のお弁当、コーヒーや焼き菓子、手作りクラフトなどが並び、お昼になると来場者でいっぱいになりました。
会場の前のロータリーには、十勝のグルメを提供するキッチンカーがずらりと並び、十勝産牛肉や中札内田舎鶏を使ったケバブとタコス、ボロニアソーセージを使ったライスバーガー、大樹産のつぶやホッキが入った海鮮カレー、しほろ牛串など十勝の食材を使ったメニューが提供されました!
また、会場入り口横には、来場者に十勝の農業をイメージさせるような巨大なトラクター(エム・エス・ケー農業機械)とポテトハーベスター(東洋農機)が展示され、来場者はその迫力に驚いていました。
午後のイベント内容は「十勝アグリ&フードサミット」レポート(後編)」に続きます。ぜひ併せてご覧ください!