北海道・十勝で、ものづくりをして活躍している企業とその商品にクローズアップして紹介します!
1975年(昭和50年)、十勝・芽室町にて創業した株式会社フクザワ・オーダー農機。
主に地域の名産「十勝川西長いも」関連の農機具を、オーダーメイドで開発・製造販売をしている。平成29年には、特許製品「立植え式長いもプランター」が第15回新機械振興賞で『機械振興協会会長賞』を受賞するなど、高い開発力と技術力を誇る総合機械メーカーだ。
長いもの生産は、長いもを小さく切り芽が出るまで育てた種芋を、土に植えるところから始まる。この植え付け作業を効率化するための農機具が普及し始めた1985(昭和60)年頃から、地域の長いも作付面積が急速に拡大。収穫量も一気に増え、地域を代表する名産品となった。
作付面積と生産量のグラフ
福澤剛志社長が先代から会社を引き継いで間もない頃、ある生産者から「植え付け時の負担(腰痛)を何とか軽減できないか」という相談を受けた。
種芋はとてもデリケートで、傷が入るとそこから腐敗して、長いもの生育に影響が出てしまうことがある。
そのため、植え付け作業は、農機の上に乗った人が低くかがんだ姿勢で手を伸ばし、土に優しく植え付ける必要があった。生産者たちにとってこの作業による身体的負担、特に腰痛が長年の悩みだった。
長時間にわたる「低い姿勢」での植え付け作業
福澤社長は、まず腰痛になる原因を分析し、植え付け作業時の人の姿勢に注目。そして、農機の上で人が立ったままの姿勢で植え付けができる、これまでに無いタイプの農機開発に着手。
開発で特に苦労したのは、(あらかじめ掘ってある)土溝の中心に種芋を正確に落とす仕組みだった。
従来の農機では、種芋を落とす位置を最後は人の手でコントロールすることができたが、農機の上から植え付ける場合は、それができなくなる。
そこで福澤社長は、走行する農機に独自開発のセンサーをつけ、農機が自動操舵しながら溝に沿って走行できるように設計。これにより機械から正確な位置に種芋を植え付けることができる様になった。
独自開発のセンサーによる自動走行する機械
現在では、この様に立ったままの楽な姿勢で植え付け作業ができるようになった。
「立植え式長いもプランター」完成品
機械を導入した生産者から、(肉体的負担が理由で離れていた)「でめんさん※が戻ってきてくれた」と聞かされたときは、本当に嬉しかったという。
(※日雇いの農業アルバイト)
この他にも、収穫期に長いもの上に被った土を取り除く機械や、つるが巻き付くための支柱を打ち込む機械、使用後の支柱の曲がりを修正する器具など、ユーザーからの「こんなことできない?」に耳を傾け、自由な発想と技術力で次々と製品化してきた。
独創的な製品ラインナップ
そんな福澤社長の元に、道内のある農業法人から「ブロッコリーをカットする機械を作れないか」という相談が舞い込んだ。
畑から収穫したブロッコリー株は、まず花蕾(からい)と茎に切り分けていくのだが、当時、国内にはこの加工ができる機械は存在せず、一株ずつ手作業で刃物を入れて分けるのが一般的だった。
花蕾と茎の切り分け作業(イメージ)
機械開発のヒントになるのは、相談を受けた際に見せられた海外製品の動画だけだった。だが、この動画には、どういった仕組みで花蕾と茎を切り分けているかという、重要なカット機構は映っていなかったという。
福澤社長は何度も動画を見返して、制作する機械の構想を練った。
フクザワ・オーダー農機にとって、初めての「食品加工機」ということもあり、このプロジェクトはとかち財団と共同で開発を進めることにした。当時はまだ、社内で「3D CAD(3次元コンピューター支援設計)」を採用していおらず、とかち財団が担当。そしていよいよ設計図が固まると、いつも使い慣れている「鉄」を使い試作機の製作を開始。試作機5台目くらいでようやく製品の形が見えてきた。
製品本体の素材には、ステンレスを採用。使用後に水で丸洗いできる様に衛生面にも考慮した。
試作段階の「ブロッコリー・フローレットカッター」
課題だったカット機構も、「円弧状」のカッターをオリジナルで考案し、このカッターの刃をブロッコリーに回転させながら当てることで、1カットで花蕾と茎を切り分けることができるようになった。
花蕾を残し茎だけを切り取るイメージ
こうして完成した「ブロッコリー・フローレットカッター」を、依頼のあった農業法人に届けると、そこから調整をすることなく、そのまま即納品することができた。
「ブロッコリー・フローレットカッター」完成品
また、ブロッコリーは品種や栽培地域、栽培時期によってサイズが大きく違うので、本体に取りつけてあるリング状のアダプターを使うことで、様々なサイズの株にも対応できるようにした。開発当初、アダプターは1枚だけだったが、その後も改良を重ね、現在は3枚のアダプターが標準で付属している。
ブロッコリー株のサイズに合わせてアダプターを使用
しかし、 売れたのはこの最初の1台で、 それからしばらくは問い合わせすらない状況が続いた。当機は「ブロッコリーの一次加工機」という用途が限られた製品。当時、この製品の存在を知る人自体が少なかった。
だが、国内・国外の食品機械が集まるアジア最大級の総合トレードショー「FOOMA JAPAN(国際食品工業展)」に、当機を持ち込み出展すると、状況が好転。 出展ブースでの実演も功を奏し、メディアからの注目も集めた。現在では全国各地の食品加工メーカーから問い合わせが来るようになった。
FOOMA JAPAN出展時の様子
また、「一度使ってみたい」というたくさんの声を受け、当機のレンタルサービスを開始。現在ではそこから購入に繋がるケースも多いという。
実際に、「ブロッコリー・フローレットカッター」と「手作業(包丁)」で、カットした場合を比較してみました。
検証の条件は「2株のブロッコリーを加工するのにかかる時間」と「カットの精度」です。それではこちらの動画をご覧ください。
包丁で切り分ける場合、茎の中心に向かって何度も刃を入れて、葉枝を落としていくことになる。
切り込みが甘いと茎が切れずに再度包丁を入れる手間が増えてしまい、逆に刃を強く入れ過ぎると、他の花蕾まで一緒に切ってしまった。
また、茎の部分を多く残した状態でカットしてしまうと、花蕾が大きくなるため、再度加工が必要になる。
この微調整が難しく、手作業で素早く加工を行うためには、一定の技術が必要だとわかった。
こうして実際にカットしてみると、花蕾の形状に合わせて刃を回転させながらカットする当機の秀逸さが理解できた。
結果、当機で2株カットするのに要した時間は約5秒。一方、手作業(包丁)は約40秒の時間を要した。
また、スピードだけではなく、カット後のブロッコリーの状態を比べてみると、一見どちらが機械を使用したかわからない精度でカットもできていた。
上列がカッターで加工、下列が手作業(包丁)で加工
これまでユーザーの「これどうにかならない?」という困り事を、独創的なアイディアで解決してきたフクザワ・オーダー農機。高い技術力のあるスタッフが揃う当社のモットーは『やれることはやる』、 『できることは断らない』。
工場の中には製作中の機械がたくさん並ぶ
また、一度完成した製品も、改善点を見付けてはブラッシュアップを繰り返し、どんどん機能的になっていくのがフクザワ・オーダー農機のスタイルだ。操作性やメンテナンスのしやすさなど、常に機械を使う人の立場を重視したものづくりを心がけている。
「メンテナンスも含めてお客さんが使いやすい物を作る。だけど相手は機械だから絶対に壊れないなんてことはない。製品を作るのと同じくらいアフターサービスも力を入れている」と、福澤社長はこだわりを話してくれた。
株式会社フクザワ・オーダー農機/福澤剛志社長
そんな福澤社長の元には、今日も「こんなの作れない?」と、多くの相談が寄せられている。
■ 株式会社フクザワ・オーダー農機
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