2024年3月21日、ソーシャルビジネス(社会課題解決型事業)の資金調達の基礎を事例とともに学び、共感者を増やすための事業計画の立て方について考えるセミナーが帯広市内のスタートアップ支援スペース『LAND』にて開催されました!
講師はこれまで団体や企業の資金調達に数多く携わってきたこの道のプロフェッショナル、ソーシャルセクターパートナーすくらむ代表の久保匠(くぼ たくみ)さんです。
すくらむ 代表 久保匠(くぼたくみ)さん
1993年北海道旭川市生まれ。
大学卒業後、愛知県知多半島に拠点を置く福祉系NPO法人に就職し、障害者支援、地域包括ケアシステム構築に携わる。その中で、「制度の狭間」のニーズに応えるためにファンドレイザーへの道を志す。
その後、日本ファンドレイジング協会に参画し、法人向けのファンドレイジング力向上プログラムを担当する。 2022年1月より独立し、NPO、ソーシャルビジネス向けのコンサルティングを行い、 日本ファンドレイジング協会 法人連携推進パートナー、北海道NPOサポートセンター 事業執行理事/北海道NPOバンク インパクトファイナンス理事、中京大学 非常勤講師、(株)あしたの寺子屋 Chief Impact Officer、チャレンジフィールド北海道 産学融合アドバイザー等も務める。
ソーシャルビジネスの特徴、そしてファンドレイジングとは?
そもそも、今回のテーマである「ソーシャルビジネス」と呼ばれる社会課題解決型事業はどんな特徴があるのでしょうか?
久保さんの説明によれば、一般的なビジネスは、受益者(サービスを受け取る側)から対価を得ることで成り立つのに対し、ソーシャルビジネスではこれがなかなか成り立ちません。
例えば、ホームレスを対象に支援事業を行っても、ホームレスの方々から直接の対価を得ることは難しいですよね。
そこで、受益者ではない第三者から資金を集める必要があります。この「社会課題解決のための資金を個人、法人、政府などから集める行為の総称」をファンドレイジングと呼び、「ソーシャル(自社)」「受益者」そして「支援者」の三角形のお金の流れを作ることがソーシャルビジネスの基本的な考え方だそうです。
そして、ファンドレイジングといっても、寄付・会費・助成金・融資や投資、そして事業収入など財源の種類はさまざま。久保さん曰く「自身の会社や団体に合う財源を選び、他の財源と組み合わせることによって財源を作っていくことが重要」ということでした。
戦略的ファンドレイジングとは?
戦略的ファンドレイジングという言葉からは、資金調達の“必殺技”あるいは“攻略法”のようなものがあるようにも聞こえます……が、実際には資金調達に入るための丹念な準備こそが重要と久保さんは言います。
一番大事なのは「ビジョン=事業を通じて実現したい地域や社会の姿」。「お金を集めるという手段の先に何を実現したいのか?」が明確に言語化されて、社会に発信されているかが資金調達を円滑に進めるポイントになるそうです。
それと並行して企業動向や競合・同業他社の動向、社会情勢の変化などのマーケットの分析、そして「実現したい状態・ポジショニングを明確化」してこそ、やっとファンドレイジングの具体的アクションを起こすことができるということでした。
「ビジョンは何か」「実現したい未来」を想像することは、どこか抽象的な作業のように思えますが、これらがきちんと言語化されていることこそが、資金調達における「共感」を呼ぶための最も大切な作業なのかもしれません。
また、どの財源をどのように組み合わせて資金調達するかが重要であるということは初めにも述べられましたが、ここでは実際に久保さんが携わったある環境NPO法人の財源状況を事例に、財源の多角化を図ることによって、相乗効果を生み出し「共感」の連鎖を生み出す具体的な仕組みについても紹介されました。
総じて、ファンドレイジングとは単なるお金集めではなく「仲間集め」であり、すぐには事業化が難しい場合も「共感」を軸に参加者を増やし、ビジョンの実現に寄与できるという説明で前半は終了しました。
ファンドレイジングの事例紹介
後半は、寄付型(クラウドファンディング)の資金調達例として、岩手県陸前高田市の「空っぽの図書館を本でいっぱいにしよう」や北海道天売島の「世界有数の繁殖地 北海道天売島の海鳥を守る!」プロジェクトを紹介。また、「世界はひとつの食堂だ」という理念のもと、開発途上国の飢餓と先進国の肥満や生活習慣病の解消に同時に取り組む日本発の社会貢献運動「TABLE FOR TWO」についても取り上げられました。
どの事例も、他者(自治体や支援者など)とうまく連携をしながら事業をマネジメントし、共通の価値観を多くの人と共有することによって、支援の輪をよりいっそう広げていくという点で共通していると感じました。
社会的インパクトマネジメントとは?
自社が設定する課題解決への切り口が明確であるか?そして、自社の事業がその課題解決にきちんとそぐうものであるか?それらをしっかりとデザインし、マネジメントしていく考え方を「社会的インパクトマネジメント」と呼び、今後ソーシャルビジネスや公益活動を行なっていく上で必須になる概念だそうです。
先ほどの「戦略的ファンドレイジング」と同様、ここでも重要なのは明確であること。
事業の価値が可視化できているからこそ説得力が生まれ、「共感」を生み出し、さらなる資源獲得に繋がることはいうまでもなく、自社の経営や意思決定についても合理的に行うことができます。
また、社会的インパクトをマネジメントするためのロジックモデル(社会課題解決の定義を明確化し、現在の事業や活動をそれにたどり着くような形に組み立てるためのフレームのこと)についても、成人病予防事業という具体例とともに説明がありました。
従来は、自社のインプット(ヒト・モノ・カネ)を活用してアクティビティ(インプットを用いて行う活動)を行うと、どのようなアウトプット(結果)があったのかまでが評価の範囲でしたが、アウトプットのさらに先にある「アウトカム」こそが重要であると久保さん。
アウトカムとは、結果的に地域や社会にどんな成果を生み出したかであり、ソーシャルビジネスにおいては、アウトカムを明確にすることも大切なポイントだそうです。
アウトカムという「自社が叶えたい未来の姿」が具体的に見えることで、「それなら今、私たちが事業においてすべことは何か?」も輪郭がはっきりとして地に足をつけた活動が可能になるということですね。
さらに、社会的インパクトマネジメントを行政の委託事業と連携しながら行う新しいスキーム「ソーシャルインパクトボンド(SIB)」についても紹介がありました。これは、公民連携事業の新しいモデルの一つであり、民間企業・団体が投資家から調達した資金を元手に、公共サービスを実施、その際に設計したインパクトを達成できた場合、政府や自治体から報酬が支払われて、民間の資金提供者に投資収益が反映されるというスキームです。
行政や民間企業・団体、資金提供者にとって「三方良しの仕組み」で、先日十勝から中札内村と連携した第一号案件(一般社団法人ちくだいKIP)が誕生しました。これからの動向に期待が高まりますね!
「ファンドレイジングの骨格を決める」ためのワーク
最後は、参加者がファンドレイジングを計画する上での提供価値を考えるワークの時間です。お金を「誰から」出してもらいたいのか?活動を通じて支援者に「提供する価値」は何なのか?価値を届けるために具体的にどのような行動をとるか(提供方法)?それによって「期待する行動変容」は何か?といった表を上から順番に埋めていきます。
大事なことは「提供価値と提供方法を混同しないこと」。プログラム(提供方法)を通じて伝えたい本質的な価値は何かを考えることが大切という久保さんからのアドバイスがありました。
それぞれが考えた自分の事業の提供価値について、2名の参加者から発表されました。
1人目の発表者である、昨年(2023年)の「とかち・イノベーション・プログラム」にも参加したJudy Mukodaさんは、岩内仙境の近くで里山や農村地帯の自然環境を守りながらスローライフを楽しむチェスターフィールド(Chester Fields)を立ち上げました。将来的には、地元の方だけではなく国内外の観光客を対象に非日常を楽しめる空間を提供し、便利すぎない暮らしを慈しみ、自然を愛するコミュニティを拡大させていきたいと考えています。
2人目の発表者である、ふく井ホテルに勤務する小松悠斗さんは、植物性で肌にも負担が少ないモール温泉の価値を広くアピールするため、入りたくても入れない高齢者の方々などに向けて移動式の足湯や温泉を作ることを計画しており4月からクラウドファンディングも開始予定です。最終的には、通過型の観光地と呼ばれている帯広にモール温泉という価値を加えて滞在型観光地にする「モールバレー構想」について発表されました。
久保さんから「ファンドレイジングは華やかな必殺技ではなく、地道な努力や基本の積み重ね。逆に基本さえしっかりできていれば、今後どんな手法があっても身につけていくことができます。まずは、自社の戦略に落としてチームやLANDで共有することから始めてみましょう」と総括。参加者同士や久保さんとの交流の後、本セミナーは終了しました。
LANDではこのようなビジネスに役立つ取り組みが定期的に開催されているので、これからビジネスを始めたい、大きくしたいという方は是非チェックしてみてはいかがでしょうか?