十勝で続々と起業の芽が大きく育ち始めています。
2023年3月14日、公益財団法人とかち財団は令和3年度に補助・助成を行った採択者5者の報告会を開催しました。補助金・助成金を得たことで創出された新たな事業や、さらに飛躍した事業に関する報告会&交流会の模様についてレポートします。
補助金・助成金をどう活用したのか?採択者5者が報告
2023年3月14日、公益財団法人とかち財団が運営するスタートアップ支援スペース「LAND」で、令和3年度「十勝人チャレンジ支援事業補助金」「アーリーステージ事業者支援助成金」報告会&交流会が開催されました。
「十勝人チャレンジ支援事業補助金」(※現在は「とかちビジネスチャレンジ補助金」に統合)
起業準備段階の事業(シード事業)や既存事業者における新たなビジネスを社会実装させるため、十勝で地域産業に携わる個人あるいは法人を対象に、国内外先進地への調査研究や概念実証等に必要な経費を補助しています。
「アーリーステージ事業者支援助成金」(※現在は「とかちビジネスチャレンジ補助金」に統合)
アーリーステージ(成長初期段階)の企業等に対し、事業の拡大成長に資する取組み支援することで地域経済への波及効果を増大させることを目的としています。対象者は十勝管内に主たる事業所がある事業開始後1年以上5年以内の事業者となり、助成金限度額は300万円で、事業を拡大成長させる上で必要と認められる経費を対象としています。
報告会には、令和3年度にとかち財団が十勝発の新たなビジネスプランやアイディアを実現するために補助・助成してきた5者が一同に介すとともに、今後、起業を志す方や既存事業をさらに飛躍させたいと考える経営者、また本報告会の前に開催された令和5年度「とかちビジネスチャレンジ補助金」説明会の参加者らが参加。5者からの報告に熱心に耳を傾けていました。
報告を行った5者
報告者からの報告に耳を傾ける参加者
補助金・助成金で十勝の産業を活性化させる事業が加速化
報告会では、冒頭、とかち財団の金山紀久理事長から「とかち財団は、事業創発と起業・創業の支援に力を注いでいます。人材育成からはじまり、挑戦する方々を支援することで、帯広・十勝に新たな事業を創出して産業を活性化させるということが目的です。人口減少が進む中、十勝の資源を生かした事業が成長・展開することで、地域の産業が維持・活性化されていく流れができつつあると感じています」と報告者・参加者への期待を込めた熱い挨拶からスタート。
とかち財団 金山紀久理事長
令和3年度十勝人チャレンジ支援事業 採択者
クラフトキッチン / 齊藤 肇(上士幌町)
事業計画名
スパイスの力で!十勝スパイスネットワーク 〜スパイスを使った6次産業化サポートと十勝グルメの新機軸演出〜
事業内容
道内のみならず国内全域のマーケットへ販路拡大を目指し、生産者とのネットワークを作り、スパイスと十勝産食材を組み合わせた新たな食品開発に取り組んだ。
マーケティングで商品開発力が向上
「十勝人チャレンジ支援事業」の採択を受けて商品開発に挑んだ齊藤さんは、「8生産者さんからの依頼案件について、生産者さんの想いに寄り添う形で商品を開発していきました。今後は既存の商品をブラッシュアップし、そこから全く新しい新商品としてバリエーションを増やしていきたいと思っています。その中でも、キンキいずしや魚醤でおなじみの株式会社中井英策商店(北海道伊達市)とは、商品開発が順調に進み2023年5月に販売開始される予定です。多くの生産者さんから学びをいただき、北海道・十勝の食材を生かすためのスパイス開発ができました」と発表しました。
クラフトキッチン 齊藤 肇さん
令和3年度十勝人チャレンジ支援事業 採択者
Pono Wolves株式会社 / 代表 加藤 拓(帯広市)
事業計画名
空き家を活用した住まいの提供
事業内容
社会課題でもあり、利用価値がないと思われがちな「空き家」をリノベーションすることで、住まいの選択肢を増やし、社会課題の解決を目指す取り組み。本補助金を活用して、空き家を活用している地域を視察し、事業の展開に役立てる。
実のある視察で十勝モデルを構築
加藤さんが挑むのは日本全国で問題となっている空き家の活用です。
「今回の事業では全国を視察してきました。例えば四国は北海道よりも高齢化が進んでいる地域なのですが、古民家を活用した宿泊施設やジェラート店など、地域おこし協力隊と連携しながら、若い人の感性やデザイン力に力を注ぐことで、20-30代が集まるまちづくりが行われていました。また、九州でも同じように地元のあらゆる材料を生かして地域創生が進んでいました。例えば、廃校を利用した建物にドローンの会社が入っていたり、その一階にはおいしいパン屋さんが営業しているなど、外から来て挑戦している人たちが集まる場所に地域の住民も集える仕組みが作られていました。今後は空き家を中心にいろいろな人々が集まり、新たな産業を生む拠点づくりをしていきたいと考えています」
Pono Wolves株式会社 代表 加藤 拓さん
令和3年度アーリーステージ事業者支援助成金 採択事業者
株式会社VETELL(ベッテル)/ 代表取締役 池田 哲平さん
事業計画名
酪農畜産農家の経営を高度化するサービスvetellの全国展開加速化事業
事業内容
牛群管理・電子カルテシステムである「vetell」を、令和3年2月にオープンローンチ。アーリーステージ事業者支援事業では、利用ユーザーの新規獲得を目指し、北海道・十勝地域を起点に、全国の畜産・酪農家に利用いただけるよう「営業体制の強化」と「営業活動費」に活用した。
牛の健康管理コストが大幅削減
「vetellは牛の健康管理を行い、安定した酪農経営を目指す共有型電子カルテです。獣医師さんなどの外部関係者と情報を共有して、畜産・酪農家さんの『経営安定化』と『高収益化』を実現します。お手持ちのパソコンやタブレット、スマートフォンがあれば、すぐに使うことができます。今回の採択を受けて営業体制の強化を図り、畜産・酪農家さんたちに本サービスの導入をアピールしてきました。導入結果としては、牛の治療回数が減り、治療期間を短縮することができたことで、治療代などのコスト削減に役立てることが立証できました」
株式会社VETELL 代表取締役 池田 哲平さん
令和3年度アーリーステージ事業者支援助成金 採択事業者
合同会社Swing by / 代表社員 山中 大輔さん
事業計画名
キッチンカー起業支援型製造販売事業
事業内容
これまでキッチンカーでの起業を考えている方々から多くの相談を受けている背景から、キッチンカーを始めたい人向けの起業セミナーを開催するとともに、キッチンカー料理人の視点による使い勝手の良い設備、十勝のアウトドアシーン等でも活躍できるデザインを施したキッチンカーの製造販売を開始した。また、十勝の農畜産関連の生産者や食品加工業者と連携し、起業後に事業者が使用できる十勝産食材のマッチングも支援していく。
キッチンカー仲間が大幅増
「キッチンカービジネスを拡大・支援するべく、キッチンカーを始めたい方向けの事業支援型の製造・販売事業をスタートしました。今回の助成金事業では、トレーラー型キッチンカーのデモカーを製造しました。デモカーを視察した企業からは、『同様のタイプのキッチンカーを製造してほしい』との依頼があったほかにも、すでに数件受注をしています。また、キッチンカーでの開業支援セミナーを開催し、実際に開業を希望する方々からの依頼もいただいています。今後も開業支援からオリジナルキッチンカーの製造など、一気通貫でサポートできるよう尽力していきます」
合同会社Swing by 代表社員 山中 大輔さん
令和3年度アーリーステージ事業者支援助成金 採択事業者
フォレストデジタル株式会社 / 代表取締役CEO 辻木 勇二さん
事業計画名
デジタル森林浴空間「uralaa(うらら)」の一般向け商品開発
事業内容
デジタル技術を用いて、あたかも森や自然の中にいるような体験ができる没入型自然空間(VR:バーチャルリアリティ)、デジタル森林浴空間「uralaa(うらら)」の開発・提供を行っており、2020年12月に浦幌町トコムロラボ、2021年6月に羽田空港どさんこプラザで常設施設がオープンした。成長をさらに加速するための新プロダクトの開発に本助成金を活用。今後、オフィスや商業施設などの多くの場所でuralaaを体験できるよう展開していく。
販売開始から確実に実績を積み上げています
「『uralaa』についてはちょうど1年前に販売を開始し、現在は7箇所の施設に常設設置いただいています。導入した店舗様からは『お客様の滞在時間が2倍になり売上も上がった』という声も頂戴しています。助成金については、撮影機材やマーケティングに活用しました。気軽に世界中の景色を体験できる空間をどんどん広げていきたいと考えています。また、企業の事業推進には資本政策が重要であると考えています。だからこそ、助成金や事業支援金の活用を検討することも重要であり、今般の助成金の採択を受けたことについては本当に感謝しています」
フォレストデジタル株式会社 代表取締役CEO 辻木 勇二さん
講評
株式会社アルプス技研 最高顧問 松井利夫さん
「株式会社ならば資本政策を考えることが重要」
最後に、十勝の起業創業・事業創発の取り組みに対して長きにわたって支援を続けている、株式会社アルプス技研の創業者 最高顧問の松井利夫さんからの講評がありました。
「みなさんの成果を聞けて嬉しく思っています。1点だけ、皆さんには、『会社』とは何かということを、今一度考えてみてほしいと考えます。会社として成長させるのであれば、『株式会社』の意味をしっかりと理解していただきたい。つまりは資本政策ですね。それは、株式数や資本の増減により、資金調達・株主構成の最適化・利害関係者の利益調整の実現などの目的を達成するための行動です。経営者であれば夜も眠れなくなるほど自身の事業のことを考えなくてはなりません。ものすごく頭の疲れる行為ですが、それが経営者として最も重要な点であると考えています。手元の資金をいくらまで育てられるか。それによって会社は成長しますし、社会貢献にもつながります」
株式会社アルプス技研 最高顧問 松井 利夫さん
全体交流会
報告会終了後、全体交流会が行われました。交流会ではクラフトキッチン齊藤さんが生産者の方々と共同開発に挑んだ商品の試食が行われると共に、参加者間の交流や、登壇者と「とかちビジネスチャレンジ補助金」への応募を目指す参加者の間で活発な交流が行われていました。
交流会の模様
十勝人チャレンジ支援事業補助金、アーリーステージ事業者支援助成金、更に公益財団法人とかち財団が実施していたとかちものづくり総合支援補助金は、「とかちビジネスチャレンジ補助金」として統合し、とかち財団はこれからもビジネスチャレンジを応援していくとのこと。また、とかち財団が運営するスタートアップ支援スペース「LAND」では、今後起業を検討している方々や事業拡大を目指す事業者の方々をサポートしています。気軽に足を運んで、ご自身のアイデアを相談してみてはいかがでしょうか?