デジタル実装の促進、ICT利活用の推進による地域活性化に向けて、基調講演、パネルディスカッションを行い、その機運醸成を図る「ICT利活用による地域活性化セミナー in 帯広」が2月28日、北海道ホテルで開催されました。当日は、会場・オンラインで全国・全道から約140名が参加し、登壇者による熱心な議論に耳を傾けました。
【主催】総務省北海道総合通信局
【共催】一般財団法人全国地域情報化推進協会、北海道テレコム懇談会
【後援】帯広市、フードバレーとかち推進協議会、公益財団法人とかち財団
開会
開会に当たり、主催者である北海道総合通信局長 磯 寿生氏からは、「各テーマにおける十勝での先進的な事例をもとに、今後の展開に関する積極的な議論が行われることを期待すると共に、参加者の皆様の今後の活動の一助としていただきたい」との挨拶がありました。
北海道総合通信局長 磯 寿生氏
また、十勝総合振興局長 芳賀 是則氏からは、「局としても十勝の地域資源を最大限に生かしたGX(グリーン・トランスフォーメーション)・DX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進を掲げており、今後様々な分野における脱炭素化の動きを進めていきたい」との挨拶がありました。
十勝総合振興局長 芳賀 是則氏
基調講演1「デジタル実装を通じた地域活性化の推進等」
基調講演1では、総務省情報流通行政局地域通信振興課長 折笠 史典氏から、デジタル実装による地域課題解決を通じたデジタル田園都市国家構想の実現に向けた、総務省の各種予算施策・支援スキームに関する説明がありました。
また、折笠氏からは、「総務省の支援施策をぜひご活用いただき、地域の活性化・課題解決に繋げていただきたい」とのコメントがありました。
総務省情報流通行政局地域通信振興課長 折笠 史典氏
基調講演2「ICTやテクノロジー、クリエイティビティと共に描く北海道の未来」
基調講演2では、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社 ローカルチーム チームマネージャー 服部 亮太氏から、効果音などのデジタルデータの販売からスタートした同社の事業に関する説明があり、また、北海道が抱える人口問題の解決のために「バーチャル道民」の創出による関係人口の増加を目指すウェブメディア”Domingo”の運営や、札幌で開催されているイベント”NoMaps”に関する紹介がありました。
また、服部氏からは、「単体のプレイヤーだけでは地域の課題を解決していくことは難しい。そのため、様々な方々が参加し、北海道の未来を一緒に考えていけるような場づくりを今後も積極的に行っていきたい」とのメッセージがありました。
クリプトン・フューチャー・メディア株式会社 ローカルチーム チームマネージャー 服部 亮太氏
パネルディスカッション1「サテライトオフィス・ワーケーションによる企業誘致・移住促進について」
パネルディスカッション1では、コーディネータとして、旭川市最高デジタル責任者(CDO)/キャリアシフト株式会社代表取締役/総務省地域情報化アドバイザー 森本 登志男氏が進行を務め、また、パネリストとして、
・株式会社内田洋行 北海道支店長 細井 清氏
・清水町長 阿部 一男氏
・十勝シティデザイン株式会社 創業者 柏尾 哲哉氏
・中札内村長 森田 匡彦氏
が登壇し、森本氏の進行のもと、サテライトオフィス・ワーケーションによる企業誘致・移住促進に関するディスカッションが交わされました。
旭川市最高デジタル責任者(CDO)/キャリアシフト株式会社代表取締役/総務省地域情報化アドバイザー 森本 登志男氏
細井氏からは、同社の現在の主な事業として、テレワーク施設・コワーキングスペースや大学内の地域連携共創スペース、廃校を活用した場づくりや共創事業を進めている旨の紹介がありました。また、今後もお客様と一緒に新しい働き方や学び方、場と街づくりを考えていきたいとのコメントがありました。
阿部氏からは、通過型となってしまっている清水町の観光の現状を踏まえ、「まちまるごとホテル」構想の実現に向けた取り組みに関する説明がありました。具体的には、Airbnb Japan株式会社と全国の自治体で初となる包括連携協定を締結し、阿部氏自らの住宅に宿泊ができるようにしたといった取り組みの他、無印良品による移住体験住宅のリノベーション事業などの取り組みにより、清水町を訪れる方々の新たな動線ができ始めている現状に関して紹介がありました。
柏尾氏からは、「ホテルから街を作る」という概念を掲げるHOTEL NUPKAの取り組みや、都市圏企業と地元企業の連携事業の創出を目指した十勝・帯広リゾベーション協議会(Resworvation=Resort×Workation×Innovation)の活動に関する紹介があり、価値創造の必須要素として、都市圏の企業や生活者と地方の人材や企業等とが相互に出会い交流することの重要性に関するコメントがありました。
森田氏からは、新型コロナウイルス感染症の蔓延をきっかけにワーケーションやサテライトオフィス誘致の取り組みに力を入れ始めたこと、また、全国的に知名度があまり高くない村の関係人口を創出するため、また情報発信の装置として、ふるさと納税型クラウドファンディングの活用による観光施設建設を株式会社そらと連携して進めている旨について紹介がありました。
左上:株式会社内田洋行 北海道支店長 細井 清氏、右上:清水町長 阿部 一男氏、左下:十勝シティデザイン株式会社 創業者 柏尾 哲哉氏、右下:中札内村長 森田 匡彦氏
最後にコーディネータの森本氏からは、どの取り組みも外部や民間の力をうまく活用しているのが非常に印象的で将来性に満ちているように感じる、また、デジタル技術を活用して情報発信をまずは積極的に行っていくことが重要で、そこからフィードバックをもらうことで取り組みのブラッシュアップを重ねていくことを検討していくべきとのコメントがありました。
パネルディスカッション2「スマートシティ・デジタル実装・ゼロカーボンの取組について」
パネルディスカッション2では、コーディネータとして、北海道大学名誉教授/北海道テレコム懇談会会長/北海道Society5.0推進会議座長 山本 強氏が進行を務め、また、パネリストとして、
・更別村長 西山 猛氏
・国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT) 戦略的プログラムオフィス長 西永 望氏
・SPACE COTAN株式会社 取締役兼CMO 中神 美佳氏
・十勝バス株式会社 代表取締役社長 野村 文吾氏
が登壇し、山本氏の進行のもと、スマートシティ・デジタル実装・ゼロカーボンの取組に関するディスカッションが交わされました。
北海道大学名誉教授/北海道テレコム懇談会会長/北海道Society5.0推進会議座長 山本 強氏
西山氏からは、最も生活に困っている高齢者に向けたオンデマンド交通やウェアラブル端末の配布、ドローンを活用した商品配送システムの構築に関する紹介がありました。一方で、村に派遣されている「コミュニティナース」が高齢者の微妙な変化を病院に繋ぐ役割を果たしている旨の紹介があり、そのようなデジタルでできない部分をアナログで補完する重要性に関してもコメントがありました。
西永氏からは、同機構が行っている地域課題解決・社会実装に向けたAIを活用した翻訳アプリ(VoiceTra)、犯罪オープンデータを用いた防犯パトロールへの活用などの研究開発・地域連携に関する説明がありました。また、課題解決に向けては異なる複数の要素の掛け合わせが重要であり、複数のプレイヤーが共に共創することによる新たな価値の創出に向け、地域でのコミュニティ醸成が重要であるとのコメントがありました。
中神氏からは、アジア初の民間に開かれた商業宇宙港である北海道スペースポート(HOSPO)の取り組みを中心に、衛星通信から得られるデータの活用による森林経営管理とカーボンクレジット創出、牛の糞尿から生成した液化メタンをロケットの燃料に活用する取り組みに関する紹介がありました。また、住民やエンドユーザーの声をしっかり聞き、そこから発想して新たな技術をいかに実装していくか、それをどうブラッシュアップしていくかが重要であるとのコメントがありました。
野村氏からは、お客様目線の原理・原則を徹底し、アナログな活動の中から得られた知見やデータをデジタルサービス化していくことが真のMaaS(Mobility as a Service:地域住民等の移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービス)であるとの言及がありました。また、最盛期よりも住民が半減した帯広市大空地区の再生に向けた活動の中において、首都圏企業を含めた様々な関係者との共創事業や地域住民とのコミュニティ構築活動を進めている旨の紹介がありました。
左上:更別村長 西山 猛氏、右上:国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT) 戦略的プログラムオフィス長 西永 望氏、左下:SPACE COTAN株式会社 取締役兼CMO 中神 美佳氏、右下:十勝バス株式会社 代表取締役社長 野村 文吾氏
最後にコーディネータの山本氏からは、DXを通じた地域の課題解決に向けては、地域の中で横の繋がりを多く作っていくことが大切であるとの説明がありました。また、この十勝のフィールドで様々な試みを積極的に行っていただき、その良い例を広く社会に還元していっていただきたいとのコメントがありました。
閉会
閉会挨拶では、一般財団法人全国地域情報化推進協会(APPLIC) 理事長 吉田 真貴子氏より、「本日は非常に熱い議論を聞かせていただいた。パネルディスカッション1の議論においては、ICTを活用して地域の魅力を発信し、地域内外の方々に新たな価値を提供する取り組みが積極的に行われているものと実感した。また、パネルディスカッション2では、アナログで培った地域の魅力をネットワークを活用して発揮させるため、より一層DXを推し進めることが重要だと改めて実感した。本日は、地域を愛する皆様の熱い想いを強く感じた。今後の北海道・十勝地域の発展を楽しみにしている。」との挨拶がありました。
一般財団法人全国地域情報化推進協会(APPLIC) 理事長 吉田 真貴子氏
また、会場後方では、株式会社内田洋行、日興通信株式会社、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)、パナソニック コネクト株式会社によるICT機器展示が行われ、参加者が実機に触れながら新たなサービスを体験していました。そして、セミナー終了後のネットワーキングにおいても登壇者や参加者の間で熱心な意見交換が行われていました。
ICT機器展示、ネットワーキングの様子
参加者からは、「登壇者の方々の地域を良くしていこうという熱い想いに感銘を受けた」「現在の自身の事業や業務内容に限らず、地域のことに広く関わってみようと考えるきっかけとなった」などといった声が聞かれ、参加者の多くが満足するイベントとなったようです。
本セミナーでは、オンラインでは全国・全道からの参加者があり、十勝における先進的な取り組みを広く発信することができました。また、地域の課題解決や地域活性化に向けて目指すべき方向性について、登壇者・参加者の間で認識を共有することができました。
これからこの十勝をフィールドに、ICTを活用した様々な挑戦的な試みが生まれてくることを期待しています!