3月14日に実施された「平成30年度とかち財団成果発表会」のレポートをお届けします!
とかち財団が行う試験研究・技術支援・産学官連携・創業支援などの取り組みを報告・紹介する本会。今年度は、十勝産業振興センター(とかち財団)の一室に地域内外から60名以上が集まり、定刻通りにスタートしました。
理事長の長澤さんより開会の挨拶が行われ、各発表が始まります!
葛西さん:当財団は、「十勝圏地域食品加工技術センター」並びに「十勝産業振興センター」の機能を活用し、ものづくり支援、地域連携支援、事業創発支援の3つの事業を柱に活動しています。本日は、主に平成30年度に取り組んだ人材育成(事業創発支援)と試験研究(ものづくり支援)についてご報告いたします。
梅沢さん:旧 公益財団法人起業家支援財団(神奈川県)との合併を機に、起業家人材の育成を通じた創業・起業・事業創発の促進による地域産業活性化、つまりは“十勝の稼ぐ力”を生み出すべく取り組んでいます。
将来起業を目指す学生に奨学金を給付する「とかち財団起業家育成奨学金」では、農業・食品分野といった、十勝ならではのビジネスアイデアが打ち出されました。また、アーリーステージ(起業後1~5年の成長初期段階)にある企業等の事業ステップアップを支援する「アーリーステージ事業者支援」においては、地域経済への波及効果や、全国・海外展開が見込める事業が育っています。さらに、フードバレーとかち推進協議会から引き継いだ「十勝人チャレンジ支援事業」では、海外渡航などの調査研究を支援。十勝の森林資源を活用した新産業創出や、ヨーロッパの農業技術導入に向けた調査研究が実施されました。
松原さん:北海道の大規模農業は、電子制御化された大型農業機械に支えられています。たとえば、トラクターと作業機は相互に情報通信を行い、トラクターの速度に連動した資材散布などの動作を実現、生産性向上に寄与しています。ただし、国際通信規格「ISOBUS」非対応且つ(通信規格が異なる)別メーカーのトラクターと作業機を組み合わせる場合、両者を接続することができないのです。ISOBUS対応の海外製大型トラクターの導入が進む中、ISOBUS非対応の国産作業機の需要減少が危惧されています。
そして今年度、北海道内に拠点を有する作業機メーカーを中心に「ISOBUS普及推進会」が設立されました。当財団は事務局として、ISOBUS対応の作業機開発の普及推進を目指し、ISOBUS対応電子制御ユニット(ECU)の開発実証、技術者育成、ISOBUS認証の支援などに取り組んでいます。
松原さん:十勝の農業は、農家一戸当たりの耕地面積が広く、現在も拡大傾向にあります。また、収穫時に人手が必要な「馬鈴薯」が輪作体系に含まれる一方、超高齢化に伴う慢性的な作業者不足は深刻であり、新型トラクターなどの導入が不可欠となっています。 「馬鈴薯」の収穫は、トラクターの運転者と作業機に乗った作業者が協力して行いますが、指示伝達が困難な作業環境の下、運転者が走行中のトラクターから乗降することも多いのだそうです。これは事故につながる危険があり、安全対策が課題となっていました。
本製品は、車外のコントローラからトラクターエンジンを停止できる「新型トラクター向け緊急停止装置」として、㈱フクザワ・オーダー農機が開発。当財団が開発支援を行いました。加速、減速、アクセル、クラッチ操作まで可能な本製品は、すでに販売に向けた生産が始まっているところです。
鈴木さん(鹿追町商工観光課):鹿追町は、十勝平野の北西部に位置する人口5,500人の農村地帯です。平成26年からは、町内のバイオガス発電施設の余剰熱を利用した「チョウザメ養殖」に挑戦しています。養殖を始めて4年が経過した現在、養殖数は9,000尾に増加。町内の学校給食やレストランなどで、高級食材であるキャビア(チョウザメの卵)や魚肉が活用されており、大変喜ばれています。
「鹿追町を代表する特産品」を目標に、スムーズな加工・販売体制を整えるため、とかち財団並びに鹿追町チョウザメ研究会との連携体制を構築。キャビアの製造方法をはじめ、塩分濃度や賞味期限設定のための各種試験及び検討会を実施しました。同時に、卵採取後のメスの活用方法を模索。様々な魚肉加工品を試作し、「炊き込みご飯の素」の開発に成功しました。卵の採取までに8年以上必要なメスを活用できそうです。
川原さん:キャビアは、既存の製法をベースに調味配合や塩の種類・濃度を変えて試作し、試食会及びアンケートを実施しました。最も好評を得た「岩塩2.5%」は、外国産に比べ塩分濃度が低いこと、そして生産地ですぐに加工できることも活かし、高級路線を打ち出すことが決まりました。
川原さん:魚肉(メス)については、から揚げ、ハンバーガーパテ、「混ぜご飯の素」を試作しました。「混ぜご飯の素」は、レトルト殺菌条件を設定する際、「炊き込みご飯の素」に変更となりました。また、部位によっては魚肉の臭みが強く残ることが分かり、臭みを消すための前処理条件を検討。60℃で2時間乾燥させる方法を採用しました。
佐々木さん:パンや中華麺といった国内の小麦加工品の多くは、海外産の輸入小麦から作られています。海外産小麦との差別化・付加価値化が求められる国内産小麦において、安心安全の観点だけでなく、栄養価や機能性成分の研究に活路が見出されているのです。そしてすでに、小麦に含まれる「フェルラ酸化合物」が機能性を有する可能性が示唆されました。
北海道産小麦の「フェルラ酸化合物」を品種別・年度別に分析した結果、春まきよりも秋まき小麦、特に強力系の小麦に多く含まれていることが分かりました。また、海外産小麦よりも国内産小麦の含有量の方が高い傾向があること、小麦の外皮に集中しており、加熱加工の影響を受けないことなども確認できました。以上のことから、“(小麦の外皮を含む)全粒粉を原料とした加工品の研究開発”が国内産小麦の高付加価値化を実現する鍵になると考えています。
渡邉さん(道総研 食品加工研究センター):北海道は小豆の主要産地であり、その生産量は国産の9割以上を占めています。一方、消費量は年々減少しており、需要拡大が強く求められているのです。そこで、製菓・製パンなどで幅広く活用可能な「小豆粉」の製造方法を研究。小豆粉の特性及び加工利用について検討しました。
まず、加熱加工時の「あん粒子」形成を防ぎ加工適正を高めるため、ピンミルを用いて小豆を粉砕。細胞内のデンプンを露出させました。ここで得られた小豆粉を小麦粉に配合し、パンやスポンジケーキなどを試作。小豆粉の配合量が多いほど加工品の体積が小さくなり、食感にも課題が残ることが分かりました。しかし、これらの課題は粒径別に分けて粉砕する「二段階粉砕」を行い、粒度分布をコントロールすることで改善されました。現在は道内の協力企業20社による試作・評価を経て、人気商品の原料として採用されています。
こうして、すべての発表が終了。質疑応答も活発に行われ、未来志向でクリエイティブな空気に満ちた時間となりました。
最後に、とかち財団が開発に携わった装置・食品の展示会場に場所を移し、血乳検査装置や車両洗浄装置、ゴマ定量供給装置などのデモンストレーションのほか、山ワサビの加工に関するポスター発表、チョウザメの加工品などの試食も実施され、活発な意見交換がおこなわれていました。
日々行われる地道な活動と組織を越えた連携が、十勝ビジネスを支えていると感じた会でした。とかち財団の今後の動向から、目が離せません!