2021年11月4日、5日に2日間にわたって開催された宇宙ビジネスカンファレンス「北海道宇宙サミット2021」。この記事では、DAY2(11/5)に帯広市で開催された「ビジネスカンファレンス(前半)」と「ビジネスサロン」の様子をレポートします!
「北海道宇宙サミット2021」とは
「北海道、開港。- 宇宙とつながる。未来がはじまる。 - 」をテーマに、宇宙ビジネスをさまざまな切り口から読み解く北海道で開催されるカンファレンス。2040年には、宇宙産業の市場は100兆円まで拡大するという試算がされ、ここ北海道でもアジア初の民間にひらかれた宇宙港「北海道スペースポート」が2021年4月に誕生、宇宙版シリコンバレーをつくろうというムーブメントが生まれています。世界の宇宙ビジネスの最新動向と未来予想、宇宙×他産業のコラボレーション、宇宙を軸にした北海道の地方創生などスペシャルなテーマを設定し、宇宙ビジネスのキーマン達とともに熱く議論していきます。
会場となった「ベルクラシック帯広」には、宇宙ビジネスに関心を持った企業や関係者から一般人まで、たくさんの人が集まりました。メイン会場では、6つのセッションに分けてカンファレンスを開催。宇宙を専門とする事業者や研究者、行政関係者など多才な顔ぶれ計25名が登壇しました。会場外には20メートル以上のロケット「ZERO」の実機大バルーン!ここは「映えスポット」になっていました!
まず、大樹町町長・酒森正人さんから「将来的には北海道スペースポートを起点として、北海道内に航空関連産業が集積し、北海道全体が活性化することを目指している。本日が北海道宇宙版シリコンバレーを形成する動きが加速するその記念の日となることを願う」と主催者挨拶がありました。
続いて、北海道知事・鈴木直道さんより「オール北海道で宇宙産業の集積、活性化に取り組んでいく。限りない可能性を秘めた宇宙産業が北海道・大樹町から大きく飛躍していくことを心から願う」というビデオメッセージが披露されました。
(左から)酒森大樹町町長、鈴木北海道知事(ビデオ)
オープニングの様子
「北海道宇宙サミット2021」のオープニングを飾ったのは、「北海道スペースポート」を運営するSPACE COTAN株式会社代表取締役社長兼CEOの小田切義憲さん、そしてデロイトトーマツコンサルティング合同会社 シニアコンサルタントの脇本拓哉さん。
(左から)小田切さん、脇本さん
(小田切さん) 2021年は世界中でいろいろな宇宙のイベントが進んでいる。アメリカではいよいよ有人宇宙旅行が始まった。将来「航空宇宙年表」を見た時に、この2021年はエポックメイキングな1年として記憶に残るそんな年だと思っている。
(脇本さん) 宇宙港が単なる打ち上げのインフラではなく、この世の中、地域を変えるような新しい産業を生み出す力を持っているキラーコンテンツであると我々は信じている。
宇宙ビジネスカンファレンス最初のセッションのテーマは「世界の宇宙ベンチャー最新動向」。日本は宇宙で世界トップに立てるのか、これからの日本の宇宙産業のあるべき姿などについて意見を交わします。
セッション1の様子
登壇者は、インターステラテクノロジズ株式会社(以下、IST)ファウンダー / Our Stars株式会社 代表取締役社長の堀江貴文さん、株式会社Synspective 執行役員 / 一般財団法人 日本宇宙フォーラム 宇宙政策調査研究センター フェロー 淺田正一郎さん、そして元JAXA宇宙飛行士で、一般社団法人Space Port Japan 代表理事の山崎直子さんがオンラインで参加。モデレーターはIST社長の稲川貴大さんが務めます。(左から)堀江さん、淺田さん、山崎さん(オンライン)、稲川さん
(稲川さん) これまで政府主導だった研究開発のメインストリームを民間企業が担う時代になってきている。我々ISTは大樹町に、射場から車で10分程度のところに本社の事務所・工場があり、設計・製造そして運用まで一気通貫でやる、こんな便利な場所は世界にない。この地理的な条件は非常に大きい。
(淺田さん) 宇宙の使い方がガラッと変わってきていることに凄い衝撃を受けた。これまでの政府がやってきた宇宙開発とは全然違う様相が出てきた。日本は宇宙産業のトップに立つ素養はあるが、次のステップに進むためにはやっぱり投資が必要。宇宙産業はもう未来ではない。現実的にもう宇宙開発はいろんな国で期待される産業として動いている。もっと本気になって考えてほしい。
(堀江さん) 今の状況はちょうど「インターネットバブル前夜」と似ている。すでにアメリカではスペースバブル的な動きが出てきていて、宇宙ベンチャーにとって資金調達など良い環境が整ってきた。ここ2、3年のうちに宇宙ベンチャーを取り巻く状況が大きく変わってくると思う。お金は多少集まるようになりつつあるが、今度は人(人材)が足りなくなるのが課題。
(山崎さん) 宇宙がどんどんと「場」になりつつあり、そこでどんなアイデアを募るかという状況。宇宙産業は裾野が広い。日本は車の燃焼器、ロボット、材料、素材などの技術をたくさん持っている。色々な技術はすべて宇宙開発と結びつくので、日本、そして北海道はトップに立つ優位性がとても大きいと思う。宇宙飛行士のジョン・ヤングの言葉で「何かを変えることはリスクがある。でも変えないことはもっとリスクがある」という言葉がある。これからの北海道、そして日本が、本当に宇宙に開かれた産業を作っていくかの分岐点だと思う。
セッション2のテーマは「日本のスペースポートの未来」。宇宙ビジネスに必須のインフラ『スペースポート』とは何か、そしてスペースポートが地域振興にもたらす影響などについて意見を交わします。
セッション2の様子
登壇者は、宇宙エバンジェリスト/一般社団法人Space Port Japan 共同創業者&理事の青木英剛さん、大分県 商工観光労働部先端技術挑戦課宇宙開発振興班 主幹(総括)の堀政博さん、SPACE COTAN株式会社 代表取締役社長兼CEOの小田切義憲さん、モデレーターはSPACE COTAN株式会社 取締役COOの大出大輔さんが務めます。
(左から)青木さん、堀さん、小田切さん、大出さん
(青木さん) 世界中でスペースポートの誘致合戦が始まっている状況。日本にはスペースポートの定義がない。法整備が極めて重要な課題なので、現在、政府と連携して民間が引っ張る形で法整備を進めており、追い風を受けている状況。この民間の宇宙ビジネスが最高潮に盛り上がるタイミングは今しかない。今がチャンス。皆さんの本業と宇宙や宇宙港を掛け算して、何ができるか是非考えて欲しい。
(掘さん) 大分県では「大分空港」を活用した水平型の宇宙港実現に向けた取り組みを進めている。今後、人材の育成がポイントになってくる。また、ロケット打ち上げには『観光』が付いてくる。打ち上げ自体を見に来る観光客、そして打ち上げに関わるビジネストリップ向けの観光。大分は温泉が有名なので、資源を活用しながらプログラムを作る必要がある。
(小田切さん) 大樹町では、ISTさんが2年前に打ち上げに成功し本格的に事業化していく準備をしている。整備費用は寄付と国からの補助金でやろうという大胆なチャレンジ。決してロケット打ち上げビジネスだけを専念してやろうとは思っていない。色んな打ち上げ業者に来てもらい、宇宙業界に関わる業者が増えれば、当然就業人口も増え、街が活気付く。
「北海道宇宙サミット2021」のネットワーキングの場として、別会場に開設されたビジネスサロンでは、宇宙ビジネスに取り組む4社の熱いピッチが行われました。
ビジネスサロン「LAND」の様子
トップを飾ったのは、IST(インターステラテクノロジズ株式会社) 社長の稲川さん。
(稲川さん) 私たちは2005年から宇宙開発を始め、2013年にISTを立ち上げ、2019年に「MOMO」シリーズが宇宙空間に到達。これまで18基を打ち上げ、液体燃料で宇宙空間に到達した民間で唯一の会社。ISTはロケットの設計から発射、運営まで全てを自分たちで行っている技術者集団。これまでの試験段階で、実際にお客の荷物を載せる「宇宙サービス」も実施している。現在開発中の「ZERO」の先には、有人飛行や小惑星探査、もっと遠い宇宙に行ったり、社名にもある様に、太陽系を超え宇宙のインフラを作っていく。
続いて、株式会社SPACE WALKER 代表取締役CEO 眞鍋 顕秀さんが登壇。
(真鍋さん) 東京理科大学発の宇宙ベンチャーとして2017年に創業。最終的なゴールは地球から月や火星へと行き来すること。そして、宇宙空間を利用して移動することで東京からニューヨークまで40分程度で移動可能な「P2P(高速2地点間輸送)」の実現を目指す。また、クリーン燃料を使い、同社の有翼式ロケットの高いレンジ能力、省エネも活かし、環境や経済にも優しい持続可能な宇宙開発をしていく。過去の「イギリス産業革命」で化石燃料中心の蒸気機関技術の発達したことが原因により、現在「脱炭素」が問題になっている。今後の宇宙開発は持続可能性を考えながら、モビリティ革命を起こす必要がある。
続いて、Our Stars株式会社 代表取締役社長 堀江貴文さんが登壇。
(堀江さん) ISTの100%子会社で人口衛星を作る「OurStars」。核となる技術は、多数のピンポン玉サイズの「ナノ衛星」を、フォーメーションフライトさせ宇宙空間に「巨大なアンテナユニット」をつくる。実現すれば、特別なアンテナや設備を必要としなくてもスマホやタブレットから直接ブロードバンド通信ができるようになる。また、高度100~200kmの超低軌道の衛星の開発も目指しており、地球上のありとあらゆる物体をリアルタイムでモニタリングすることが可能になる。逆にこれを宇宙に向けると、将来的には隣の恒星系にある地球型の惑星を直接移動することが可能になり、その星に海・酸素・陸があるかがわかる様になる。我々は最先端のテクノロジーを使って宇宙に大きく広がっていく。
最後に、SPACE COTAN株式会社 代表取締役社長兼CEO 小田切義憲さんが登壇。
(小田切さん) 従来は全ての宇宙飛行は、国営でNASAのロケットで行っていたが、今年アメリカで既に3社の民間企業が有人宇宙を成功させている。乗り物としてのロケットは「国」から「民間」へシフトしている。今後、衛星データもインターネットで自由に使える様になれば、学生や若い人を中心に色んなビジネスのシーズが生まれる。牛(の糞尿)で発生させるメタンガスで発電することで、燃料の自給自足、さらに人材の自給自足も目指し、最終的には大樹町をコアとして北海道全般に進めていく。
(「北海道宇宙サミット2021(DAY2)「カンファレンス」レポート(後編)」に続きます)